ベクトル、関数、数列ときて、 数列を決めるルールとしての漸化式に流れてきました。 最初の微分方程式のシミュレーションでは、 そもそもの話として微分方程式を近似して漸化式を出し、 その漸化式をもとに数値計算・シミュレーションをしていたのでした。 いい加減この 2 つをきちんと繋げましょう。 それが今回の目的です。
前回は小学校の算数の文章題を思い出していました。 ついでに高校の力学の話にも少し触れました。 要は $a_{n+1} - a_{n} = \alpha_n$ と階差が定数ではなく数列になっています。 そして一般的にその数列がわからないから手も足も出ないのでした。
潔く一般論は諦めましょう。 階差 $a_{n+1} - a_{n}$ が数列であったとしてもどうにかなる場合はあります。 高校でもいくつか具体例は見ています。
具体的に対処できる例はいくつかあります。 そのうちの 1 つは $a_{n+1} - a_{n} = \alpha a_{n}$ のように、 階差が直接 $a_{n}$ で、それも $a_n$ の一次式で書ける場合です。 これは特に $a_{n+1} = (1 + \alpha) a_n$ なので等比数列です。
あなたは「そんな都合のいいことだけ考えて意味があるのか?」と思うかもしれません。 微分方程式を考えるなら十二分に意味があります。 具体的に見てみましょう。
まずは関数の微分係数を定義します。 ある点 $a$ での関数の微分係数 $f'(a)$ は次のように定義します。
\begin{align} f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f (a + h) - f (a)}{h}。 \end{align}$\lim_{h \to 0}$ はあとで簡単に説明することにして、 まずは言葉を定義します。 導関数から始めましょう。
いま微分係数の定義では点 $a$ を固定していました。 それを動かして一般の点 $x$ にすれば新しく数と数の対応が作れます。 つまり関数が定義できます。 その関数を導関数と呼びます。 元の関数から導出される関数だから導関数なのだと思ってください。
そもそも $\lim_{h \to 0}$ は何でしょうか。
厳密な話は別のところで議論しているので省略します。 きちんと詰めるのは大変ですし、 そもそも数学科でもない限り必要ない議論です。
$\lim_{h \to 0}$ は $h \to 0$ の見た目の通り $h$ を $0$ に近づけていくという意味です。 $h$ を限りなく $0$ に近づけると言うこともあります。 つまり次の表式 $\lim_{h \to 0} \frac{f (x + h) - f (x)}{h}$ は比 $\frac{f (x + h) - f (x)}{h}$ を考え、 $h$ をどんどん小さくしていった究極の姿を取り出せ、という命令です。
前回、漸化式で数列 $(a_n)$ の $n$ はステップと言いました。 1 分後とか 1 秒後とかそういう意味です。 極限の記号 $\lim_{h \to 0}$ で出てくる $h$ が何を制御しているかというと、 まさにこのステップの刻みです。
$h$ が分なり秒なりの適当な意味で $1$ だとすると、 $f (x + h)$ は $a_{n+1}$、$f (x)$ は $a_n$ だとみなせます。 大雑把に言えば数列の $n$ 番目、$n$ ステップ目 $a_{n}$ を $x$ 番目と思ったのが $f (x)$ です。
極限はステップの刻みをどんどん小さくしていくと言っているだけです。 1 時間刻みで考えていた、つまり車の速度のように「時速何km」で考えていたのを「分速何km」、「秒速何km」と変えていくだけです。
ステップの刻みを小さくしていった究極の姿が導関数または微分係数 $f'(x)$ なので、 $h$ が小さければ $f'(x) \fallingdotseq \frac{f (x + h) - f (h)}{h}$ です。 極限という面倒な概念操作をはさむので $f'(x)$ はどうしてもわかりづらいですが、 $h$ が小さければ右辺でよく近似できます。
そして自明ですが、大事なことを言います。 よく近似できるのはそう定義したからです。
ここでごく単純に $f'(x) = \alpha f (x)$ としてみましょう。 $f'(x)$ は $\frac{df (x)}{dx}$ とも書けます。 最初にやった微分方程式と揃えるため、 変数は $x$ から $t$ にして関数は $f$ ではなく $u$ と書くことにすると $\frac{du}{dt} = \alpha u$ です。 これはまさに最初にやった放射性物質の崩壊の微分方程式です。
次に先程の近似を使います。 $\frac{du}{dt} = \frac{u (t + h) - u (t)}{h}$ なのでした。 上の 2 式をまとめると次の式が出ます。
\begin{align} \frac{u (t + h) - u (t)}{h} = \alpha u (t)。 \end{align}もちろん次のようにも書けます。
\begin{align} u (t + h) - u (t) = \alpha h u (t)。 \end{align}$t$ や $h$ で書き変わっているものの、 $t$ が変数で $h$ が固定のステップの刻みだと思えば、 $a_{n + 1} - a_{n} = \alpha' a_{n}$ と同じ形です: もちろん $\alpha' = \alpha h$。 ご都合主義のような解ける漸化式、 実は現実とよくマッチしているのです。
こんなところです。 この講座では放射性物質の崩壊と単振動くらいしか紹介してはいませんが、 数列の処理がきちんとできると割とそのノリで物理もできます。 高校でもやる単振動の運動方程式は $\frac{d^2 u}{dt^2} = - \omega^2 u$ です。 2 階微分の左辺はともかく右辺で $u$ の一次式が出てくるわけで、 大雑把に言えばさっき説明したのと同じ形です。
今回、微分の話もそこそこに微分方程式に突っ込んで流れを回収しました。 次回はもう少しきちんと微分の話をしましょう。 厳密な話をしていてもきりがないので、 高校であまり触れられない「気分」を紹介します。
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